資源循環をより身近な取り組みに|TOKYO CORK PRPOJECT 北村 真吾さん
飲食店から回収したコルク栓を再資源化して、新しいプロダクトを生み出す「TOKYO CORK PRPOJECT(トーキョー コルク プロジェクト)」。この取り組みをはじめて今年で10年。代表の北村さんにこれまでの10年とこれからについてお話を伺いました。
「トレードオフ」への葛藤が活動のきっかけに
マンションデベロッパーで働いていた頃、当時開発をすることになったある施設跡地を現地調査したときのことでした。その場所が町の人たちの憩いの場のようになっていたのを見かけました。いたたまれなくなってしまって、社に戻って状況を説明し、あの土地は開発しない方がいいのではと提言してみましたが、当然何を言っているんだと煙たがられてしまい……開発によって失われるものの大きさや違和感に葛藤しながら過ごしていました。その後、知人の伝手もあり、もともと興味のあった外食産業に転身。そこでもまたフードロスやゴミの廃棄問題、水の大量使用などのトレードオフ(一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態のこと)の大きさを目の当たりにしました。私が働いていたお店では、1ヶ月間に抜いたコルク栓をまとめて廃棄する習慣があり、その量の多さに愕然としましたね。もともと僕にとって環境や動物というのはとても大切にしたい分野でしたが、この頃から環境にポジティブな取り組みを考えたいと強く思うようになりました。
コルクの再資源化先進国を参考に、スキームを構築
個人で活動をはじめたのが2010年9月。海外のワイン先進国ではコルクの再生資源化が発達していて、再生コルクを使った製品はもちろん、コルクで作られた公園もあるほど。海外の例やリサーチをもとに、飲食店に協力してもらい廃棄されるコルク栓を回収、資源として再生、プロダクトとしてもう一度世の中に送り出すというスキームを考えました。コルク栓の回収は概ね順調で、現在は、東京で500店舗ほど、関西の酒販店さんで150店舗ほど、計約700店舗のパートナーさんにご協力いただいています。大変だったのは、資源として再生させるパート。日本でコルクを製造している業者さんは実に9社しかありません。前例のない一からの取り組みでしたし、僕たちが集めてきたコルク栓を粉砕して形成するためには、自社作業を一旦ストップしてもらわなければならないということもありパートナー探しから難航しましたが、120年続く老舗のコルクメーカーの永柳工業さんと提携。再生の工程、手法について二人三脚で歩みながら構築することができ、現在に至ります。
分業・チーム性。だからこそ「持続的な」プロジェクトに
2014年12月に株式会社GOOD DEAL COMPANY(グッドディールカンパニー)を立ち上げ、法人として活動がスタートしました。2015年にSDGsが国連で採択され、昨今、世の中の目がこういった活動や取り組みに向いてきているのを感じている今、周知と流通への取り組みのタイミングだと感じています。このプロジェクトでは、回収されたコルク栓の仕分けや洗浄のパートを、障がい者の方や心に病のある方が働く施設に依頼しています。みんなで分業しながらチームで取り組んでいるプロジェクトなので、全体で持続的に取り組んでいくためのと「モチベーション」と「インカム」が必要です。製品化〜流通の部分はこの2つに関わる大きなポイント。これまでも度々出展をしてきましたが、今後はさらに積極的に展示会に出てみようと考えています。最近では企業様のノベルティにも採用していただいたり、NEWoMan新宿では、回収されたコルク栓がそのあとどうなったのかを可視化できるプロダクトを紹介スペースが設けられたり、Bunbukuさん、THE CONRAN SHOPさんなどとのコラボレーションなど、わかりやすい形で広く知ってもらう機会も広がってきています。
一方で「サステナブルな製品ですよ、だからいいものですよ」と謳ってモノを販売するのには限界があると感じています。購入の動機って、やっぱり好きな感じとか使いやすさといったシンプルなものだと思います。だから、デザイン性や機能性などプロダクトとしての成立の重要さも感じています。「たまたま手に取った素敵なものが、サステナブルな製品だった」というストーリーになっていったらいいなと。アーティストのみなさんにご協力いただいて、ステージで使用した弦をアクセサリーとして生まれ変わらせるというプロジェクトも動いています。背景には、1年間のステージを通じて大量の弦が廃棄されているという現状がありました。そういった使用済みの弦をリングやシルバーバングルに施してデザインしています。どの公演で使用した弦かがわかるトレーサビリティも取っていて、購入の際に選択が可能です。アーティストとファンが思い出を共有しながら自然と環境問題に取り組んでいる。これもひとつの理想の形です。
目に見えるわかりやすい形、より身近な取り組みに
リサイクルの本質は、新たな資源の消費を抑えることができることにあります。リサイクルボックスに入れたら終わりではなく、そのあとどうなっていったのかを辿り、提示していくことがアクションの広がりにつながると思っています。僕個人としては、活動をはじめてから10年を迎えます。「再生資源、資源循環を目に見えるわかりやすい形で、より身近な取り組みにしていきたい」というのが、これからの僕のテーマです。
北村 真吾(きたむら しんご)
1983年生まれ。茨城県出身。マンションデベロッパーに就職、用地売買から販売までを一貫して担う。外食産業に転身後、日々の仕事や暮らしの中にある大量資材と環境汚染、廃棄物とフードロスに疑問を持ったことから、トレードオフを小さくしながら暮らしを豊かにする事業として「TOKYO CORK PROJECT」を2010年にスタート。2014年に株式会社GOOD DEAL COMPANYを立ち上げる。
【TOKYO CORK PROJECT公式サイト】
http://tokyocorkproject.jp
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